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『La croisade de l'ange 4:Paris』⑮

La croisade de l'ange Chapter 4 『Paris:天使の聖戦』

15

追われる二人は普段の服装に着替え、黒塗りの馬車を駆っていた。晴れていたはずの空はいつの間にか薄い雲が張り巡らされ、すくってもすくっても濁りの消えない泥水に似ていた。この地域では雨でも降ったのか、道はぬかるんで古い轍に乗り上げてはすべる馬車が、普段とは違う揺れをしている。
ロンフォルトともう一頭の馬は心地良い風情で規則的な蹄の音を響かせていた。
シャルルは騎士見習いらしい皮のブーツに短めの上着、胸当てと膝宛、篭手は皮製で腰にはイタチ剣。いつでも手に取れるようにと、軽い小さめの楯が御者台の脇に置いてある。白イタチは楯に登っては内側から顔をのぞかせたり、尻尾だけを振り振りして見せたり。
遊んで欲しいらしいが、シャルルはかまう余裕はない。
飽きたイタチが今度は座席のロイのほうへ。ロイは顔をのぞかせたクウ・クルを手にとって、抱きしめる。絹の上着、その上に毛織物の暖かいコートを羽織る。ロイのそういった服装はクウ・クルのお気に入りだ。シャルルの冷たい皮の胸当てなんか楽しくないのだ。上着とコートの間にもぐりこんで探検する。ぐるりと体の回りを這われて、ロイはくすぐったくて笑う。
首元を回ってロイの腹の前に落ち着くと、膝の上でごろんとくつろぐ。
お前は、と笑っているうちに、咳き込むから、白イタチは不思議そうに体を起こした。
「ごめん、クウ。少し横になるよ」
そう呟いて、ロイはひどく揺れる座席に身体を横たえた。
それでもこの馬車が一番まともな乗り心地なのだ。贅沢などいえない。
護られるばかりで、何も出来ない。
ロイが出来ることはただ、息苦しさと密かに戦うことだけだ。
シャルルのほうに戻ろうとするイタチを捕まえて、「ここにいなさい。邪魔したらいけないよ」と。柔らかな獣を抱きしめる。ふと。横になった視界に、足元に転がるビンが見えた。パリに戻る前、例の毒らしきものだ。シャルルが取り落として、そのままになっていた。馬車が曲がるに合わせて転がりロイの足先にコツンと当たる。
しばらくそれをつま先で玩んでいたが、ロイは起き上がり、拾った。
クウ・クルは匂いが嫌いなのか不機嫌に飛び出すと、シャルルのほうへと戻っていく。
ロイはじっと液体を見つめていた。


三つ目のセーヌ川を横切る橋に着いた時、シャルルは馬に水を飲ませようと馬車を止めた。
パリを出てから二時間ほど。そろそろ、遠くパリの警備線が見えてくる頃だ。シャルルはロイが眠っていたので、その間に馬たちの面倒をみる。
リシャールのくれた地図を広げた。そこには、パリはないからシャルルは拾った木の枝で印をつけた。途中にある村で小船でも借りられたら、川沿いに逃げた方がいいかもしれない。
警備線の手前に、宿を取ったあの村があるはず。
ノルマンディー領に入れば、ルーアンにまで辿り着ければ安心だ。ロイの話では、ヘンリー三世との盟約があるらしい。保護してもらえるんだ。
そう、ついこの間は逆だったけれど。
ふと、ロトロアの顔がよぎる。あの時、僕を庇って怪我をしたんだよな。あいつ。
ふん。
勢いよく息を吐き出し、地図を丸めた。
軍隊にしろ、追っ手にしろ。遭遇したら終わり。本当ならば目立たない道を行きたいところだ。けれど土地勘のないシャルルが一人で馬車を操って進むことができる道となると一つしかない。来た道、ル・アーブルからパリに向かったあの道を逆にたどるしかなかった。
リシャールの言っていた「地理と気候の知識の重要性」とやらが身に染みる。ない知識を今更嘆いても、どうしようもない。
大丈夫、とにかくノルマンディーの軍に合流できれば、守ってもらえる。それはパリの警備線まで来ているはずなんだ。
と、河原に腰掛けた足元に、不意に白い生き物が顔をのぞかせた。
「クウ!」
口に虫をくわえ、自慢げに顎を上げてみせる。
「お前はどこでも、楽しそうだな!」
それに尻尾で応えると、白イタチはくるりとシャルルの周りを一周して、傍らで食事を始めた。
「私たちも何か食べないとね」
目が覚めたのか、ロイが馬車から降りてきた。

シャルルの切るハムを見かねて、ロイが「私が」と、手を差し出す。
「いいよ、ロイのすることじゃないよ、僕が切る。ハムを切るのは下手くそだけど、ほら、いくつかはまともだし」
言いながら、背後の視線を感じながら。シャルルは憐れなハムにナイフを突き立てる。
「!」
シャルルは振り返る。
「い、今。笑っただろ!」
ロイは口元を手で覆って、苦しそうにしていた。
「ぷ、だって。ハムが、可哀想だよ」
「か、可哀想って!どうせ食べるんだから!」
「ほら、こうして、力を抜いて」
ナイフを持つ手にロイの手が添えられる。
温かい、白い手に余計に緊張するというものだ。
「だって、ロイが見てるから!!だから、変になるんだ」
真っ赤になるシャルルの手元、すと、と。ハムが綺麗な切り口を見せる。
「ほら、出来た。何度も弾いたり押したりしたらだめだよ。真っ直ぐ、ナイフに重みをかける感じで」
ロイの声は耳元に温かい。
羨ましげにハムの様子を見つめるクウ・クルと目があった。
「シャルル、あれ?」
まな板代わりの樽のふたに、ハムの切れがいくつか並んだところでロイの手が離れ、シャルルは慌てて目を擦る。
「どうしたの、何か入った?」
にっこりと綺麗に笑うロイ、その手が暖かいのは熱があるからで。
なのに僕はまともにハムも切れない。
助けるって言っておいてさ、ハムも切れない。
「シャルル」
ぎゅ、と。抱きしめられた。
座り込んだ草地はしっとりと膝に触れる。
すん、と鼻をすすれば、情けなさも倍になる。
「大丈夫だよ、一緒に行くって決めたんだろう?」
「うん、分かってる、ごめん、ごめん。僕」
「シャルルがこんなに泣き虫で、可愛いって知らなかった」
「な、泣き虫じゃないぞ、ちょっとゴミがさ」
「うん」
ロイは背中から抱きしめたまま、だまった。
すん。
シャルルの鼻をすする音だけ。
二回目のそれにシャルルは耐えられずに、「あの、あのさ」と。声を出す。
「いいから、もう少し。誰かと、触れているのは安心できる。嬉しいことや、幸せだなと思うことがあるとね、つい、考えてしまうんだ。後、何回こういう想いができるんだろう。あと何日、こんな幸せな気分で眠ることが出来るんだろうって」
「馬鹿だよ、ロイ。数え切れないよ。ずっと、側にいるんだから」
「うん。最期まで、側にいてくれるかな」
「当たり前のこというな。なんか、腹が立ってきたぞ、ロイ」
そこでくす、とロイの笑みが背中に伝わった。
「私が元気がないと、君は元気になるね」
「ロイが元気な方がもっと元気だ。お腹すいたよ、ほら、…あ」
シャルルが改めて手元のハムを見ると、白い獣がしっかり食い散らかして。
綺麗に切れた意味などなくなっていた。
「クウ!!!」

ラン伯との戦場となった場所を、横目に見ながら時間を逆算。この速度ならあと一時間くらいだ。
いったん横切ったセーヌ川がまたいつの間にか街道のそばにある。その陽射しをきらめかせる川面が木立の間越しに見えるようになった頃、シャルルは前方に馬の影を見つけた。
誰か乗っていた。
ひらりと、風に髪がなびいた。
背中には、弓ではない何か。

その人物はふと馬を止めた。
シャルルも、速度を緩める。
互いに十メートルの距離を保ったところで止まった。

「シャルルちゃんだねぇ!」
「サール!」

吟遊詩人は満面の笑みを浮かべながら、近づいてきて、シャルルの脇に馬を寄せ、向きを変えた。
ゆっくりと並んで進みながらサールは「奇遇だねぇ!どうしたんだい?この馬車、確かヘンリー三世公のだったよねぇ」と、にこにこと笑う。
「そうなんだ、そういえば!サール、あの時僕らのこと、だましたのか?」
思い出したシャルルに青年はあっけらかんと笑って見せた。
「まあねぇ、だってロトロア様がいたもんね。あの人、嫌いなんだよぅ」
「……」
「あれ?あ、ねぇ、これ、まさかロトロア様が乗ってるとか?」
シャルルは反射的にぶんぶんと首を横に振った。
へぇ、とサールは馬を止め。馬車を覗き込んで、それからまた馬を走らせてシャルルに追いつく。
「あれ、あの子だれだい?もしかして!」
「そう、ロイなんだ」
「見つけたんだぁ!すごいじゃないか!王子様なんだよね?二人でどこに行くんだい?パリから、離れるのかい?」
「あの、あのさ。僕ら、ヘンリー三世陛下のところまで帰るんだ。あの」
言いよどんだシャルルに、吟遊詩人は首を大げさに傾けてみせる。
「でもさぁ、シャルルちゃん。この先が封鎖されててさ、ほら、警備線のとこね。通れなくて僕も戻ってきたとこなんだよねぇ」
「え?」
「ルイ九世陛下の軍隊だよね、赤い上衣だったしさ。百合紋だったし」
シャルルは馬車を止めた。
あれれ、と声を上げながら、数歩行き過ぎたサールがまたシャルルの脇に戻ってきた。
「ねえ、サール。僕ら、ルイ九世から逃げてるんだ。パリにいたらロイは殺されちゃう!だから、助けたくて!」
ふうん。
サールののんびりした口調と穏やかな笑み。シャルルは張りつめていた気持ちが緩んで思わず瞳に涙が揺れた。
サールはふと表情を厳しくした。
「逃げて、どうするんだい?」
「ロイとイングランドに、行くんだ。その、僕もずっとそばに、いていいって言ってくれたし」
頬を赤くする少女に、サールは目を細めた。
「好きな子だったもんね、大事なんだねぇ」
また、涙が溢れそうになる。いちいち、サールは心の琴線に触れるようなことを言う。様々な世界、様々な人を見てきたからなのか、シャルルにはわからないけれど。サールの手がいつの間にか伸び、シャルルの髪を撫でた。
「分かるよ、シャルルちゃん。気持ちはさぁ。身分が違ってもさ、結ばれなくてもさぁ。お側に、いたいよねぇ」
シャルルはサールの声がわずかに鼻声のような気がして、顔を上げた。
「サール、も?」
青年は肩をすくめた。「大切な人がね、シャンパーニュにいるんだ。会いたくて会いたくてさ。仕事が終わったらすぐにでも会いに行くんだ。でもまた、意地悪なくらい、あそこに行けだの、そっちの様子を見てこいだの。意地悪、なんだよ。多分」
「寂しいね」
また涙をあふれさせるシャルルの肩を、とんとんと優しくたたいて「お前さんはほんとに、優しい子だね。いい子だ。やっぱり、嫌いじゃないなぁ」と歌うように話した。

あ、と。
シャルルとサール、二人同時に背後の気配に気づいた。
遠く、木立をすり抜ける影。騎馬だ。

ぞわりと、全身が震えた。
「あれは」サールの声も低い。
「逃げなきゃ、いけない!」
叶わない、僕一人では。
それは分かっている。

サールと同時にシャルルも馬に鞭を入れた。
「ロンフォルト、走って!とにかく速く」
不意に走り出した馬車に、ロイが様子を見ようと窓に近づく。サールの姿を見つけ、ロイは目を丸くした。
サールはにっこりと、この状況下で笑った。
「ロイ様、いや、フィリップ王子様。初めまして!私はサルバトーレ・ルエンデス。旅の詩人ですぅ」
全力で走らせる馬の上で、自己紹介されても。
ロイは目を丸くしたまま、シャルルの様子をうかがう。
「追っ手がねぇ、来ていて、ああ、そうか!」
サールは何か思い出したように馬に拍車をかけ、前方のシャルルの方へと近づいた。
「シャルルちゃん!駄目だよ!この先は封鎖されてる!どこか街道からそれなきゃまずいよ」
「で、でも!」
「馬車はあきらめた方がいいよ、無理だよ」
「でもっ!」
「大人の言うことは聞くもんだ!いいから、今ならまだ、間に合う、止まれ!」
サールの言うとおり。封鎖されているのだろう。
緩やかなのぼりになっていた街道の先、空との境に見えるあたりには、何やら動くたくさんの姿。
兵たちと、街道で足止めを喰らっている人々だ。
その先は煙があちこちで流れ。
そう、ちょうど小高い丘の切れ目で、そこが警備線。

シャルルは馬を止めた。
「どう、どうしよ、サール!どうしよう!」
「馬で逃げるのがいい、ほら、ロンフォルトなら二人乗れる。シャルルは馬を」
言って、サールは馬車に駆け寄ると、中からロイを引っ張り出した。
「王子様、ほら急いで。逃げなきゃいけないよ」


「おや、お前。サールじゃないか」
覚えのある、声。
シャルルはちょうどロイをロンフォルトにまたがらせたところ。
サールも、馬上で背後を振り返った。

「ロンロン」
シャルルがつぶやいて睨み付ける。背後には枯草を踏んで二頭の騎馬が回り込む。近衛騎士団の姿をしている。
馬車のそばを離れる前に、すっかり五人に囲まれていた。
ロトロアは、黒髪を風になびかせいつもの笑みを浮かべている。その少し後ろにリシャール。そして、ロトロアを挟むようにして、近衛騎士団長。二人の美しい青年が、まるで戦いの神のように左右にある。
シャルルは彼らをじっと睨んだ。

「シャルル、鬼ごっこはおしまいだ。怪我をさせたくないだろ、ロイ様をこちらに」
「ロイ様も、どうか無謀なことはおやめください。陛下には私からご説明いたします。地下牢に入れるなどしませんから」と、穏やかに言ったのはベルだ。
背後の近衛騎士の馬が、小さく鼻を鳴らし。嘘だ、と思ったシャルルの気持ちに重なった。
サールはああ、と。困ったような声を出して、身動きしない騎馬たちの中で一人、馬を数歩、廻らせた。
「あのぅ、なんでそんな怖い感じなんですかねぇ。ロイ様でしょう?大切な方でしょう?子供二人に、大の大人が五人もですか。いやぁ、宮廷も必死というか、なんていうか」
「黙れ」
「サール、貴方は無関係でしょう、離れていた方がいいですよ」
ロトロアが睨み付ける脇で、リシャールが静かに問いかけた。「サール、わが親友。貴方に余計な危害を加えたくはありません。わかるでしょう?この子らはもう逃げられない。結果は分かっています。貴方が余計なことをしなければ、二人は大した怪我もしなくて済みますよ」
うーん、と唸って、サールは首をかしげた。その仕草がどうにも芝居がかっているようで、ロトロアはさらに苛立ちを強くする。
「邪魔するなら貴様も殺す。ティボー四世伯が黙っているのをいいことに庭に咲く花を盗もうとする。目障りだ」
サールの表情が変わった。
馬が背後の主人の様子を感じ取るように、耳をぴくぴくとひるがえす。
シャルルはまだ、ロンフォルトに乗れずに。腰の剣にそっと手を伸ばしているものの。一人だけ、地に立つ状態。
見上げるロトロアは、シャルルが知っている男と少し、違う気がした。
殺す。
ああ、そうだ。
かつてランスに来たロトロアは、目的のためには手段を択ばない、怖い男だった。それは、勘違いでもなんでもない。敵に回せば、いつでも。こうなるのは分かっていたはずだ。
「だから、嫌いなんだよ、貴方は。人の心のわからない、お人だ」
サールはまだ、腰の剣を抜いてはいなかった。
「ふん、色恋などに惑わされないだけだ。そこの馬鹿のようにな」
馬鹿は、僕のことか。
シャルルはその眼をまっすぐ見つめ返した。ロトロア。その顔は、笑い顔のほうが記憶が多い。いつもにやにやして笑う。そうして、僕を側に置くと、言ったこともある。
リシャールが言うように、僕に気があるんだと思ったこともある。
でも本人が言うとおり、愛情なんか、例えあったとしても。目的のために無視できる奴だ。
「僕は、あんたと違う。世話になったけど。あんたとの契約は終わりだ」
「シャルル、本気なのですか」
今更、問いかけるのはリシャール。わずかに、眉をひそめる。
「僕が、ロトロアと契約したのはロイのためだ。ロイを探すために側にいたんだ。そいつだってわかってる。最初から、お互いを利用しようとしたんだろ。だとしたら、契約はここで終わるのが自然の成り行きだよ。ロイを、殺させはしない。絶対に」
シャルルはゆっくり、かみ締めるように言葉をつなげる。

「まあ、ロトロア様がよろしいなら、私は構いません。よろしいんですか、ロトロア様」
ロトロアは目を細めた。
「獅子の子、よく言ったものだ。そういうお前でなくてはつまらん」
「そういうのが、キライなんだ!あんたの!」
シャルルが剣を抜いた。
「スタラス、ロイ様を」ベルトランシェの声に、ロイの背後の騎馬が動いた。
振り返れば、ロイの乗るロンフォルトを近衛騎士が抑えようと馬を近づける。
「ロイ!逃げろ」
シャルルは手にした剣の柄で思い切りロンフォルトの尻を殴りつけた。
甲高い馬の鳴き声。一瞬落ちかけたものの、ロイは手綱にしがみつき、ロンフォルトは二頭の騎馬の間を走り出した。すぐに二騎の近衛騎士が後を追う。
「サール、ロイをお願い、頼むよ!」叫んでシャルルはロトロアとリシャール、そしてベルトランシェの前に両手をあげて立ちはだかった。
いや、一人地に立つシャルルが、馬に乗る三人を抑えられるはずもないが。
ベルトランシェは部下に任せるつもりなのか、ただシャルルを見下ろしている。
サールは黙ってロイの後を追った、ようだ。
背後の様子は、今のシャルルには分からない。
正面の三人をじっとにらみつけた。

「ふん、馬に蹴られてみるか?」
ロトロアが威嚇のつもりか馬を進め。シャルルはその瞬間にロトロアの馬に切りつけた。
悲鳴に似た鳴き声。「お前!」馬上の男が叫ぶ。シャルルは駆け抜けざまにリシャールの馬にも切りつけた。
ぐんと右足に重心を移し振り返る。瞬間、風を切る気配。
シャルルは剣にしなやかな鞭が絡む寸前、真下に座り込んだ。
ベルトランシェの鞭は剣先の細いところをかすめ、わずかに感触を残して、また男の手元に戻る。
と、ぎらりと夕日に何か光る。リシャールの髪、その剣。感じるままにシャルルは飛び避けた。リシャールは馬から降りていた。
痛がって転がった騎馬が背後にもがく。

ち、と。舌打ちと同時にリシャールの隣にロトロアの姿も加わった。
シャルルに切られた脚を引きずるもう一頭も役には立たない。
シャルルは剣に滴る血を振り払った。
頬にかかる赤はシャルルの金髪を彩る。菫の瞳もあわせ極彩色の少女は、不適に笑った。

「リシャールが、教えてくれたんだろ。自分に馬がなければ、相手の馬を狙えってさ」
「そうでしたね。余計なことばかり、覚えているものです」
風になびく髪。いつも、稽古したリシャール。
これは、実戦だ。
シャルルは不意にリシャールの懐に体当たりした。
剣を持つ手に集中していたリシャールは一瞬遅れ。
近すぎる間合いに肘で庇う。シャルルはその下、胴衣の腹の部分に思い切り蹴りを繰り出す。離れようとした動きで威力は半減したものの、リシャールはぐ、と苦しげに身をかがめ膝をつく。
剣を持っているけれどシャルルが使う武器は主に拳や蹴り。そこが、リシャールが苦手とするところ。ここぞとばかりにシャルルが剣を振りかざす。

と、リシャールは顔を上げた。シャルルを正面から見つめ、剣を持つ手を下に下ろす。
斬りかかったシャルルはそれに気付いて留まり、飛びのいた。

「馬鹿ですね。お前は私を斬れない。もちろん、ロトロア様のことも。だとしたら、シャルル。お前がどれだけ体術に優れていても、意味は成しませんよ。我らはお前を殺すことが出来る」
「そん、そんなことない!僕は殺せる!平気だ!」
高鳴る心臓の鼓動が耳を塞ぐ、それでもリシャールの言いたいことはわかった。
僕に、勇気がないのだと言っているんだ!
シャルルは拳に力をこめるともう一度、斬りかかった。
と、脇からの影に気付いてそちらへと構えなおす。ロトロア、だ。
認識した時には、ずるりと足元が滑った。
え?
足首に巻きついた、鞭。それに引っ張られ、シャルルは地に転がった。剣の柄で土を掻いて這い上がろうとする時には。ずしりとした重みが身体を押さえつけた。
ロトロアが背中を踏んでいる。「こ、このっ!」
剣を振り回そうとしたけれど、剣はリシャールに踏まれていた。「シャルル、覚悟しなさい」言葉と同時に、右手に熱い痛み。踏みつけられて、シャルルは剣を放した。
「生け捕り、という感じか」ロトロアの声は楽しんでいる。
悔しくなって、シャルルは叫んだ。
「馬鹿、馬鹿!!放せ、放せよ!」
後ろにひねり上げられた手は縛られた。
強引に引き起こされた時には、もう、身動きできない。
それでもロトロアの腹に頭突きをし。「おいおい」と、笑われた。
蹴りを、と思っても、絡んだ鞭はそのままで。勢いで転がりかかってまた、抱きとめられた。
そのまま、芋虫のように担ぎ上げられる。
「放せ!ばかー!!」
「さて、この雑魚はともかく、近衛騎士団長どの?貴方の部下はきっちりと獲物を捕らえてくれていますかな」
「ばかー!」
シャルルを馬車に押し込んで、ロトロアは振り返る。
ベルトランシェは自分の馬にまたがった。
「あのサールとやらがどの程度かは知らないが、敵ではないでしょう。で、お二人はどうされますか。馬を失っては、そこで仲良く待っていてもらうしかありませんね」
馬鹿にしたように肩をすくめ、「様子を見てきます」と馬を走らせる。
リシャールと顔を見合わせ、ロトロアは「ま、お手並み拝見、でいいんじゃないか」と笑った。
「そうですね。もうすぐ日が暮れますし。ここで野営になりそうですね。準備します」
リシャールは馬車に積まれた荷物を引っ張り出す。
そこに詰まれた食糧やら水をみて、リシャールが口笛を吹くと、ロトロアが「ヘンリー三世陛下の奢りだ、ありがたくいただこう」と笑った。
二人の会話と気配を感じながらシャルルは一人じっと、馬車の中に転がっていた。


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藤宮さん(^∇^)

ありがとうございますo(^▽^)o

多勢に無勢。確かに。
何をどうしても、シャルルたちは子どもですからね~。

ファンタジーな大逆転もむずかしいし。
じゃあどうなる、かは。あと少し秘密です。
後二回で完結です!
うむー、これでいいかと、いつも緊張します。
。・°°・(>_<)・°°・。
楽しんでいただけると、嬉しいです!

どうなるか……

あと少し、あと少しなのに。

やっぱり、天(?)は二人に穏やかな時間を与えないのか……。

うう、ロトロアたちに追い付かれて、シャルルちゃんたちはどうなるのでしょう。

サールがいても、多勢に無勢かも。
そもそも、ロトロアたちに真正面から戦いを挑んでも、勝ち目はなさそうですから……。

あのビンでも使うとか? それはちょっとないかなー。
何にしても、一筋縄ではいかない状況ですね。またパリに逆戻りになるのか……。

ああ、期待と不安でどきどきですよ。
シャルルちゃんたちの行く先に光があることを祈って、続きを待ってます♪
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